無期転換ルールに関する見直し
~明示義務の追加など~

2023年1月25日
無期転換ルールに関する見直し ~明示義務の追加など~

【5分で納得コラム】今回のテーマは「無期転換ルールに関する見直し」についてです。

1. 無期転換ルールとは

労働契約法では18条1項において、「同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間が5年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。」としています。

例えば、契約期間を1年とする期間の定めのある労働契約(以下、有期労働契約)を締結した社員について、契約を5回更新し、通算契約期間が5年を超える6年目の契約期間中に、当該社員から期間の定めのない労働契約(以下、無期労働契約)へ転換したいと申込みがあった場合は、会社の意向にかかわらず、7年目から無期労働契約に自動的に転換されることになります。なお、当該社員から無期労働契約への転換の申込みがなければ、会社の意向によらずに無期労働契約に転換されることはありません。

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2. 無期転換ルールの認知状況

厚生労働省の「令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」によれば、無期転換ルールについて「よく知っている」「だいたい知っている」を合わせた割合は、下表のとおり、正社員とパートタイム・有期雇用労働者の両方を雇用している企業においては58.4%と6割に満たず、また、パートタイム・有期雇用労働者においては31.5%と3割程度になっており、認知が進んでいない状況がみられます。

□パートタイム・有期雇用労働者に関する法令の認知度
法令項目:有期労働契約を更新して通算5年を超えた場合、労働者の申込みにより、無期労働契約に転換できる。

対象 よく知っている だいたい知っている 聞いたことはあるが、よくわからない 知らない 不明
企業 25.7% 32.7% 17.7% 15.3% 8.6%
パート・有期労働者 9.5% 22.0% 21.1% 45.4% 2.1%

3. 無期転換ルールに関する見直し

このような無期転換ルールに関する認知状況を踏まえて、昨年、労働政策審議会で無期転換ルールに関する見直しについて議論がなされ、無期転換の申込みが可能となる契約更新時にその旨や無期転換後の労働条件を明示することなどについての意見が述べられています。

□令和4年12月27日付「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について」(労働政策審議会)より一部抜粋(文字色は加筆)

(2)無期転換を希望する労働者の転換申込機会の確保
  • ○ 無期転換ルールに関する労使の認知状況を踏まえ、無期転換ルールの趣旨や内容、活用事例について、一層の周知徹底に取り組むことが適当である。
  • 無期転換申込権が発生する契約更新時に、無期転換申込機会無期転換後の労働条件について、労働基準法の労働条件明示明示事項追加することが適当である。
  • ○ この場合において、労働基準法の労働条件明示において書面で明示することとされているものは、無期転換後の労働条件明示にあたっても書面事項とすることが適当である。
(3)無期転換前の雇止め等
  • ○ 無期転換前の雇止めや無期転換申込みを行ったこと等を理由とする不利益取扱い等について、法令や裁判例に基づく考え方を整理し、周知するとともに、個別紛争解決制度による助言・指導にも活用していくことが適当である。
  • ○ 紛争の未然防止や解決促進のため、更新上限の有無及びその内容について、労働基準法の労働条件明示事項追加するとともに、労働基準法第14 条に基づく告示において、最初の契約締結よりに、更新上限を新たに設ける場合又は更新上限を短縮する場合には、その理由労働者事前説明するものとすることが適当である。

パートタイム・有期雇用労働者の中には無期転換を希望しない者も一定割合いるようですが、労働政策審議会より提示された内容を踏まえて法令関係が整備されれば、無期転換ルールの認知が進み、当該ルールに基づいて無期労働契約に転換する者が増えるでしょう。

また、同時に、無期転換ルールの対象となる者を生じさせないよう、5年以内の更新上限を定める制度変更を検討する企業も増えるでしょう。なお、この点については、労働政策審議会の意見にあるように、紛争未然防止のため労働基準法第14条に基づく告示においての対応が提言されています。

執筆陣紹介

岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)

食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「テレワーク・フリーランスの労務・業務管理Q&A」 (共著/民事法研究会/2022)、「実務Q&Aシリーズ 退職・再雇用・定年延長(共著/労務行政研究所/2021)、「判例解釈でひもとく働き方改革関連法と企業対応策」(共著/清文社/2021) など。

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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。

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