65歳未満の在職老齢年金制度(2022年4月1日施行)

2022年5月26日
65歳未満の在職老齢年金制度(2022年4月1日施行)

2022年4月1日から年金制度が改正されていますが、今回はいくつかの改正点の中から「65歳未満の在職老齢年金制度の見直し」についてご紹介します。

在職老齢年金制度とは

60歳以降に厚生年金保険に加入する在職者に支給する老齢厚生年金を「在職老齢年金」といいます。

もともと厚生年金保険における老齢年金は、支給開始年齢に加えて「退職」が支給要件になっていたため、在職者には支給されませんでしたが、高齢者は低賃金の場合が多く、賃金だけでは生活が困難な状況がみられたため、昭和40年に、65歳以上の在職者に支給される特別な年金が創設されました。これが在職老齢年金の始まりです。

改正前の在職老齢年金では、賃金と年金額に応じて年金額の一部又は全部が支給停止される仕組みになっていますが、“65歳未満” は低賃金の在職者の生活を保障するため、“65歳以上” は高賃金の在職者の年金を支給停止するためと趣旨が異なるため、 “65歳未満” と “65歳以上” で異なる仕組みになっていました。今回改正されたのは、このうちの “65歳未満” の仕組みになります。

65歳未満の在職老齢年金制度の見直し

在職老齢年金制度では、「①基本月額」と「②総報酬月額相当額」に応じて年金額の一部又は全部が支給停止されます。

①基本月額
⇒ 老齢厚生年金の年金額(年額)を12で割った額
②総報酬月額相当額
⇒ 毎月の賃金(標準報酬月額)
+1年間の賞与(標準賞与額)を12で割った額

改正前の65歳未満の在職老齢年金制度では、「①基本月額」と「②総報酬月額相当額」の合計額が「28万円」を上回る場合は年金額の全部又は一部が支給停止される仕組みになっていました。厚生労働省年金局の調べによれば、60歳台前半の在職している年金受給権者の半数強がこの支給停止の対象になっていたようです。

働くことで年金額が減ることにより就労に与える影響が一定程度確認されていること、“65歳未満” と “65歳以上”で異なる仕組みになっているのは煩雑であるためわかりやすくすること等の観点から、改正後の65歳未満の在職老齢年金制度では、 “65歳以上”の仕組みと同様に、「①基本月額」と「②総報酬月額相当額」の合計額が「47万円」を上回る場合に年金額の全部又は一部が支給停止される仕組みに緩和されました。

改正後の支給停止額の考え方は次のとおりです。

A=「①基本月額」+「②総報酬月額相当額」

A≦47万円のとき
支給停止額=0 ※年金額の全額が支給されます
A>47万円のとき
支給停止額=(A−47万円)÷2×12
年金の基本月額が10万円で総報酬月額相当額が26万円、合計36万円の場合

※厚生労働省「令和4年4月から65歳未満の方の在職老齢年金制度が見直されました」より抜粋

年金が減額されないよう厚生年金保険の加入要件を満たさない労働条件を選択していた方もいたかもしれませんが、年金制度の改正が働き方を見直すきっかけにもなりそうです。

なお、高年齢雇用継続給付(雇用保険)を受ける場合はさらに年金の一部が支給停止されますが、その仕組みは従来どおりです。

執筆陣紹介

岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)

食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「テレワーク・フリーランスの労務・業務管理Q&A」 (共著/民事法研究会/2022)、「実務Q&Aシリーズ 退職・再雇用・定年延長(共著/労務行政研究所/2021)、「判例解釈でひもとく働き方改革関連法と企業対応策」(共著/清文社/2021) など。

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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。

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