「固定残業代」に関する最高裁判決

2017年7月26日

実際の残業の有無にかかわらず、残業代に相当する額を定額で毎月の給与に含めて支給する方法(本コラムでは「固定残業代」といいます。)を採用している会社をよくみかけますが、平成29年7月7日に、固定残業代に関する最高裁の判決がでましたので、今回はその概要をご紹介します。

今回ご紹介する裁判は、医療法人に勤務していた医師が解雇無効と割増賃金の支払い等を求めて争ったもので、年俸の中に時間外労働等に対する割増賃金が含まれていたか否かが争点のひとつとなっています。1審、2審では年俸の中に割増賃金が含まれていたとされましたが、最高裁でその判決が廃棄され、審理差し戻しとなっています。

概要

当該医師の年俸は1,700万円、月例給与は本給と諸手当を合わせて月約120万円で、割増賃金は「時間外規程」に基づいて支払われることになっていますが、当該規程に基づいて支払われるもの以外の割増賃金は年俸に含まれているとされていました。ただし、年俸のうち割増賃金に相当する部分がいくらであるかは明示されていませんでした。

「時間外規程」による割増賃金の対象となる業務
①原則として、病院収入に直接貢献する業務又は必要不可欠な緊急業務に限ること
②緊急業務における実働時間を対象として、管理責任者の認定によって支給すること
③勤務日の午後9時~翌日の午前8時30分の間及び休日に発生する緊急業務に要した時間とすること
④通常業務の延長とみなされる時間外業務は、時間外手当の対象とならないこと
⑤当直・日直の医師に対し、別に定める当直・日直手当を支給すること 等
1日の所定勤務時間:午前8時30分~午後5時30分(休憩1時間)


最高裁の判決では、次のように述べて、年俸に割増賃金が含まれていたとはいえないとしています。

  • 使用者が労働者に対して労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討することになるところ、同条の上記趣旨によれば、割増賃金をあらかじめ基本給等に含める方法で支払う場合においては、上記の検討の前提として、労働契約における基本給等の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であり、上記割増賃金に当たる部分の金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである。

  • 前記事実関係等によれば、上告人と被上告人との間においては、本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金を年俸1,700万円に含める旨の本件合意がされていたものの、このうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったというのである。そうすると、本件合意によっては、上告人に支払われた賃金のうち時間外労働等に対する割増賃金として支払われた金額を確定することすらできないのであり、上告人に支払われた年俸について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。

  • したがって、被上告人の上告人に対する年俸の支払により、上告人の時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできない。

    ※下線は加筆しています。


上記裁判のように、固定残業代の仕組みを採用しているものの、基本給の中に含むとして固定残業代自体の金額が不明確であったり、実際の残業に応じて計算された割増賃金と固定残業代との差額を支払う体制がなかったり等の不適切な運用はよくみられます。
固定残業代については、これまでの裁判においても同様の判断がなされていますので、固定残業代を採用している会社においては、この機会に専門家に相談する等して運用を点検し、必要に応じて見直すことをお勧めします。
なお、職業安定法が改正され、2018年1月1日より、新卒以外の求人においても、固定残業代に関する計算方法や固定残業代を除外した基本給の額等について明示することが求められます。求人や採用の際には、誤解を与えることがないよう制度の概要を明確に書面や口頭で伝え、労務トラブルに発展することがないようにしたいものです。





執筆陣紹介

岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)
食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー、退職金制度構築支援等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「企業再編・組織再編実践入門」(共著/日本実業出版社)、「まるわかり労務コンプライアンス」(共著/労務行政)他。


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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。

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