雇用保険の適用拡大

2016年10月26日

人口が減少し、また、総人口に占める65歳以上の者の割合が21%を超える「超高齢社会」の日本においては、労働力人口の減少が大きな問題となっており、働く意欲を持つ人が誰でも働き続けることのできる「全員参加型社会」の実現を目指して、様々な制度の見直しが行われています。
以前取り上げた「厚生年金・健康保険の短時間労働者への適用拡大」は、パート主婦(夫)層の労働力拡大を図ったものでありこの見直しのひとつですが、今回は65歳以上の高齢者の雇用に関わる「雇用保険の適用拡大」についてご紹介します。

適用拡大の背景

現行の雇用保険制度では、「65歳に達した日以後に雇用される者」の適用を除外しています。つまり、65歳以降に新たに雇用される者については雇用保険に加入することができず、いわゆる失業保険等の給付も受けることができません。これは、65歳以上の者は労働生活から引退することが制度設計の前提となっていたからです。
しかし、現状では65歳以上の就業者数や求職者数は増加傾向にあり、これまでの前提は馴染まなくなってきました。そこで、65歳以上の者についても雇用が促進されるよう、失業者のセーフティネットである雇用保険が適用されるよう見直しが行われました。

新たに適用される範囲

今回、新たに雇用保険が適用されるのは、65歳以降に新たに雇用される者となります。これまでも、65歳以上の者うち64歳から引き続き雇用されている者については「高年齢継続被保険者」という区分で雇用保険が適用されていましたが、今後は、これまで「高年齢継続被保険者」となっていた者も含めて、65歳以上の者については「高年齢被保険者」という区分で雇用保険が適用されます。
なお、1週間の所定労働時間が20時間未満である場合や、31日以上の雇用見込みがない場合等の雇用保険の適用除外要件に該当する場合は、これまで通り雇用保険は適用されません。

改正の時期

雇用保険の適用拡大は、2017年1月1日からとなります。したがって、1週間の所定労働時間が20時間未満である場合や、31日以上の雇用見込みがない場合等の雇用保険の適用除外要件に該当しない限り、65歳以上の者に関しては次の取り扱いとなります。

①2017年1月1日以降に65歳以上の者を新たに雇用した場合
事業所を管轄するハローワークへ当該者に関する「雇用保険資格取得届」の提出が必要となります。
なお、提出期限は65歳以上の者を雇用した月の翌月10日となりますので、例えば2017年2月1日~28日までに雇用した65歳以上の者に関しては、2017年3月10日までに手続きが必要となります。
②2016年12月31日時点では雇用保険の適用対象でなかった65歳以上の者が2017年1月1日時点でいる場合
2017年1月1日から雇用保険が適用されますので、事業所を管轄するハローワークへ当該者に関する「雇用保険資格取得届」の提出が必要となります。なお、当該提出の期限は、特例が適用され、2017年3月31日となります。
③2016年12月31日時点で「高年齢継続被保険者」である65歳以上の者が2017年1月1日時点でいる場合
「高年齢継続被保険者」から「高年齢被保険者」に区分が変更となりますが、手続きは特に必要ありません。

また、受給要件を満たせば、「高年齢求職者給付金」や「介護休業給付金」等の給付を受けることができます。

雇用保険料の徴収

「高年齢被保険者」については、当面、雇用保険料の徴収が免除されていますので、事業主・被保険者ともに保険料の負担は生じません。なお、この免除は2020年3月までの暫定措置となっていますので、2020年4月以降は雇用保険料の徴収が必要となります。

以上、雇用保険の適用拡大により来年以降手続きが必要となりますので、事業主は年内に対象者の有無を確認する等の準備をすすめるとともに、65歳以上の者等に対して制度の変更に関して説明の機会を設けるとよいでしょう。





執筆陣紹介

岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)
食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー、退職金制度構築支援等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「企業再編・組織再編実践入門」(共著/日本実業出版社)、「まるわかり労務コンプライアンス」(共著/労務行政)他。


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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。

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