残すところわずか3ヵ月
厚生年金・健康保険の短時間労働者への適用拡大

2016年6月23日

2012年の通常国会で改正法案が可決・成立し、2016年10月1日より始まる「短時間労働者に対する厚生年金・健康保険の適用拡大」。改正法成立当初はかなり先の話だと思っていましたが、施行日まで残すところわずか3ヵ月となりました。既に対象となる企業では様々な対応準備が進んでいることと思いますが、改めてその概要を確認しておきましょう。

501人以上の事業所が対象

今回の適用拡大は、すべての事業所が対象となるわけではありません。対象となる事業所は「特定適用事業所」と呼ばれ、「同一事業主の適用事業所の厚生年金保険の被保険者数の合計が、1年で6ヵ月以上、500人を超えることが見込まれる場合」となります。従って、厚生年金保険の被保険者数が500人以下の事業所は、今回の適用拡大の対象とはなりません。

4つの要件

今回、新たに厚生年金・健康保険に加入が必要となるのは、これまでのいわゆる「4分の3基準※」に該当しない働き方をしていた短時間労働者のうち、先述の「特定適用事業所」に勤務し、次の4つの要件をすべて満たす者となります。

①週の所定労働時間が20時間以上であること 所定労働時間とは、就業規則や雇用契約書等で決められている通常勤務する時間を指し、残業時間は含まれません。
②雇用期間が1年以上見込まれること 1年以上の雇用実績がない場合でも、契約更新される可能性がある等の1年未満で契約終了することが明らかでない場合は、雇用期間が1年以上見込まれると考えます。
③賃金の月額が8.8万円以上であること 残業代等の所定外賃金や家族手当等の最低賃金の対象とならない賃金を除外して月額を算定します。なお、厚生年金・健康保険の標準報酬月額を決定する場合の報酬の考え方とは異なります。
④学生でないこと 卒業前に就職し卒業後も引き続き同じ事業所に勤務する予定の者(卒業見込証明書を有する場合に限る)や休学中の者等の一部の学生は除かれます。

今回の適用拡大に伴って重要になるのが所定労働時間や雇用期間等の労働契約の内容です。労働契約の内容が曖昧な場合には、上記要件に該当する否かが判断できません。従って、パート・アルバイト等の短時間労働者を雇用する場合にも、必ず、雇用契約書等の書面を交付し、所定労働時間等の労働条件を明確にする必要があります。

また、保険料の負担が生じるため、厚生年金・健康保険に加入したくないとの短時間労働者の声もあるようです。このため、加入要件に該当しないよう勤務時間をさらに短くしたいとの要望が出る可能性があり、この場合には雇用の確保を別途検討しなければならなくなります。

いずれにしても、「特定適用事業所」では、施行日まで残り3ヵ月となっていますので、早い段階で、適用拡大の内容を踏まえてパート・アルバイト等の短時間労働者と話し合い、2016年10月以降の取扱いを明確にしておく必要があるでしょう。

※「4分の3基準」とは
短時間労働者が厚生年金・健康保険の被保険者になる基準のことをいい、具体的には、次の(ア)(イ)の両方を満たす場合となります。
(ア)労働日数
1ヵ月の所定労働日数が一般従業員の概ね4分の3以上である場合
(イ)労働時間
1日又は1週の所定労働時間が一般従業員の概ね4分の3以上である場合
*2016年10月1日以降は、(イ)は「1週の所定労働時間が一般従業員の概ね4分の3以上である場合」に変更されます。




執筆陣紹介

岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)
食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー、退職金構築支援等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「企業再編・組織再編実践入門」(共著/日本実業出版社)、「まるわかり労務コンプライアンス」(共著/労務行政)他。

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