ウクライナ情勢等による影響と「会計上の見積り」に関する会計処理(2022年6月第1四半期の決算留意事項)

2022年7月14日
ウクライナ情勢等による影響と「会計上の見積り」に関する会計処理(2022年6月第1四半期の決算留意事項)

はじめに

今般のウクライナをめぐる国際情勢や新型コロナウイルス感染症に関連し、事業活動に直接的又は間接的な影響が生じている場合、「会計上の見積り」の前提となる様々な仮定に影響が生じることが想定されます。

第1四半期決算において、「会計上の見積り」に関する会計処理を検討する上で、どのような点に留意が必要となるでしょうか。

1. ウクライナ情勢による影響の種類や項目

影響の種類

(1) 関連する地域に被監査企業の拠点がある場合の直接的な影響

関連する地域に被監査企業の拠点がある場合、事業の見直しに基づく拠点の閉鎖等

(2) 政府の措置が産業や経済事象に及ぼす間接的な影響

日本政府を含め、各国政府は、諸般の措置を実施しています。これらの措置により関連する産業や経済事象に影響が及ぶ可能性を考慮し、前年度決算における見積りの仮定に修正が必要となるかどうか検討することが考えられます。なお、日本政府による措置については、各省庁webページにおいて公表されています。

影響が生じる項目例

関連する地域に所在する主要な事業拠点、子会社、関連会社において、以下の事項又は事象に対応する必要がある場合

・固定資産の減損(連結上ののれんも含む)、税効果会計、棚卸資産の評価、債権の回収可能性、事業撤退の影響の反映等といった会計上の見積り
・現地の事業拠点、子会社、関連会社におけるグループ財務諸表作成に必要な財務情報の作成に関する遅延の発生

関連する地域に重要な取引先(原材料の調達先、得意先等)又は投資先がある場合

・債権の回収可能性、税効果会計、投融資・保証の評価等の会計上の見積り

今般のウクライナをめぐる国際情勢により事業に上記に記載したような影響がある場合、経営者による会計上の見積りの前提となる様々な仮定に影響が生じることが想定されます。また、現状においては、事象は帰結しておらず、見積りの不確実性が高まっていると考えられます。

財務諸表において認識又は開示する必要があるため、会計上の見積りが必要となる取引、事象及び状況に把握漏れがないか、留意が必要です。

会計上の見積りへの影響としては、例えば、将来キャッシュ・フロー等の予測に影響する以下の項目(仮定や基礎データ)が挙げられます。

(1) 事業の継続

(2) 契約や取引の履行可能性、サプライチェーンの乱れ

(3) 製品等の今後の需要動向や供給動向

(4) 原材料の価格、燃料価格及び資源価格、食品等の原料価格、輸送運賃価格等の上昇

(5) 天然ガスやその他の資源(鉱物資源等)の供給不足

(6) 為替変動

なお、会計上の見積りを行う基礎データとして用いられることが想定される各種経済指標(*1)は、ウクライナをめぐる国際情勢の直接的及び間接的な影響を踏まえ入手可能な最新の情報を検討することが必要です。

*1:例えば、次のような経済指標が参考になります。
日本貿易振興機構(JETRO)「基礎的経済指標」:https://www.jetro.go.jp/
国際通貨基金(IMF)「World Economic Outlook」:https://www.imf.org/en/Home
国際エネルギー機関(IEA)「Oil Market Report」:https://www.iea.org/

(出所)※一部筆者による要約
日本公認会計士協会「2022年3月期監査上の留意事項(ウクライナをめぐる現下の国際情勢を踏まえた監査上の対応について)」(2022年4月7日)

2. 四半期決算における「会計上の見積り」に関する会計処理

四半期決算では、財務諸表利用者の判断を誤らせない限り、簡便的な会計処理によることができます(基準47項、9項及び20項参照)。四半期財務諸表は、年度の財務諸表等よりも開示の迅速性が求められているためです。

見積り項目についても、前年度決算から経営環境等に著しい変化が生じていないことを前提に前年度決算の結果を利用できる等とする簡便的な取扱いが容認されているものがあります。

ただし、四半期決算においても、原則として、年度決算と同様の方法により判断を行うこととされており、 四半期特有の会計処理及び簡便的な取扱いは、経営環境等に著しい変化が生じていないと認められる場合に限り、容認されていることに留意が必要です。

「会計上の見積り」は、「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」とされています(遡及会計基準4項(3))。

ウクライナ情勢やコロナ禍の今後の進展や変化によって、経営環境等の変化を四半期決算に織り込み、これらの状況による影響を反映した最善の見積りを行う必要があります。

なお、ウクライナ情勢についても、収束時期や帰結は不透明であり、不確実性の高い環境下における基本的な考え方は、新型コロナウイルス感染症による影響に関する考え方と同様です。

会計上の見積りに影響を及ぼす事象や状況について、企業の事業活動にマイナスの影響を及ぼす情報及びプラスの影響を及ぼす情報の双方を含む入手可能な偏りのない情報を総合的に評価して、悲観的でもなく、楽観的でもない仮定に基づく企業固有の事情を反映した説明可能な仮定となっているかどうかに留意が必要です(日本公認会計士協会「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」参照)。

「会計上の見積り」を行う上での考え方については、2021年4月7日掲載の会計士コラム「令和3年3月期の決算留意事項(「会計上の見積り」と新型コロナウイルス感染症の影響)①」をご参照ください。

関連基準等:
・基準:企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」
・指針:企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」
・遡及会計基準:企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」
・減損指針:企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」

執筆陣紹介

仰星監査法人

仰星監査法人は、公認会計士を中心とした約170名の人員が所属する中堅監査法人です。全国に4事務所(東京、大阪、名古屋、北陸)2オフィス(札幌、福岡)を展開しており、監査・保証業務、株式上場(IPO)支援業務、ファイナンシャルアドバイザリーサービス、パブリック関連業務、コンサルティングサービス、国際・IFRS関連業務、経営革新等認定支援機関関連業務などのサービスを提供。

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