時価の算定に関する会計基準等に係る時価開示の概要

2022年5月12日
時価の算定に関する会計基準・ポイント&時価開示

1. はじめに

時価の算定に関する会計基準等が、2021年4月1日以後開始する事業年度から原則適用となり、初めての年度決算を迎えます。今回は、時価の算定に関する会計基準等のポイント及び必要となる時価開示の概要をご紹介いたします。

2. 時価の算定に関する会計基準等のポイント

(1) 時価の定義

「時価」とは、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格をいうと定義されました(基準第5項)。

(2) 時価の算定方法及び時価の分類

時価の算定にあたっては、状況に応じて、十分なデータが利用できる評価技法を用いることが求められます。評価技法を用いるにあたっては、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にする必要があります(基準第8項)。
また、時価の算定に用いるインプットは、レベル1から順に優先的に使用するとされています(基準第11項)。

①レベル1のインプット
時価の算定日において、企業が入手できる活発な市場における同一の資産又は負債に関する相場価格であり調整されていないもの

②レベル2のインプット
資産又は負債について直接又は間接的に観察可能なインプットのうち、レベル1のインプット以外のインプット

③レベル3のインプット
資産又は負債について観察できないインプット(当該インプットの使用は、関連性のある観察可能なインプットが入手できない場合のみ)

インプットを用いて算定した時価は、その算定において重要な影響を与えるインプットが属するレベルに応じて、レベル1の時価、レベル2の時価又はレベル3の時価に分類されます。なお、時価を算定するために異なるレベルに区分される複数のインプットを用いており、これらのインプットに時価の算定に重要な影響を与えるインプットが複数含まれる場合、これら重要な影響を与えるインプットが属するレベルのうち、時価の算定における優先順位が最も低いレベルに当該時価を分類します(基準第12項)。

時価の算定にあたって複数の評価技法を用いる場合には、複数の評価技法に基づく結果を踏まえた合理的な範囲を考慮して、時価を最もよく表す結果を決定するとされています(基準第9項)。
時価の算定に用いる評価技法は、毎期継続して適用し、当該評価技法又はその適用(例えば、複数の評価技法を用いる場合のウェイト付けや、評価技法への調整)を変更する場合は、会計上の見積りの変更として処理する必要があります(基準第10項)。

(3) 第三者から入手した相場価格の利用

取引相手の金融機関等の第三者から入手した相場価格が時価算定会計基準に従って算定されたものであると判断する場合には、当該価格を時価の算定に用いることができるとされました(適用指針第18項)。

(4) 期末前1か月の平均価額に関する定めの削除

その他有価証券の期末の貸借対照表価額に期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる定めについては、その平均価額が改正された時価の定義を満たさないことから削除されました。
なお、その他有価証券の減損を行うか否かの判断については、従来通り、期末前の1か月平均価額を利用できます。

(5) 時価を把握することが極めて困難という概念の削除

たとえ観察可能なインプットを入手できない場合であっても、入手できる最良の情報に基づく観察できないインプットに基づき時価を算定するという考え方の下では、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券は想定されないとされました。
ただし、市場価格のない株式等に関しては、たとえ何らかの方式により価額の算定が可能としても、それを時価とはしないとする 従来の考え方を踏襲し、引き続き取得原価をもって貸借対照表価額とする取扱いとされています。

3. 時価の算定に関する会計基準等の時価開示の各項目の記載内容等

年度 四半期
計算書類 有価証券報告書
連結財務諸表作成会社の単体
1.金融商品の状況に関する事項(大きな変更はない。) 省略可
2.金融商品の時価等に関する事項 省略可
BS価額と時価の表 簿価と時価が近似するものは表示を省略可 ※1 省略可
金融商品の時価の算定方法 全面削除。(下記の「3.〜」に移行
有価証券(有価証券関係注記を含む) 大きな変更はない。(時価算定方法のみ下記の「3.〜」に移行) ※1 関係会社株式以外は省略可
デリバティブ取引(デリバティブ取引関係注記を含む) 大きな変更はない。(時価算定方法のみ下記の「3.〜」に移行) ※1 省略可
時価の把握困難な金融商品 市場価値がない株式等のみ残留 ※1 省略可
債権の償還予定額 大きな変更はない。 ※1 省略可
債務の償還予定額 大きな変更はない。 ※1 省略可
3.金融商品の時価のレベルごとの内訳などに関する事項 ※2 省略可
(新設)適用初年度は比較情報を書略できる。(上記の「2.〜」については、初年度から比較情報が必要。) 時価のレベルごとの定義 ※1 省略可
レベルごとの時価(時価でBS計上) ※1 省略可
レベルごとの時価(時価でBS計上以外) ※1 省略可
時価の算定方法の説明(レベル2、レベル3) ※1 省略可
レベル3の詳細な時価情報 ※1 省略可
  • 〇:記載が必要
  • △:金融商品が、企業集団の事業の運営において重要なであり、かつ、前連結会計年度の末日に比して著しい変動が認められる場合のみ記載
  • ※1:会社計算規則においては、「1. 〜」、「2. 〜」及び「3.〜」の大項目のみ示されています。各社の実情を踏まえ、計算書類においては注記を要しないと合理的に判断される項目は、注記しないことが許容されるものと考えられます。
  • ※2:有価証券報告書の提出義務のある大会社以外は省略可

(凡例)
・時価の算定に関する会計基準等:時価の算定に関する会計基準、時価の算定に関する会計基準の適用指針
・基準:時価の算定に関する会計基準
・適用指針:時価の算定に関する会計基準の適用指針

執筆陣紹介

仰星監査法人

仰星監査法人は、公認会計士を中心とした約170名の人員が所属する中堅監査法人です。全国に4事務所(東京、大阪、名古屋、北陸)2オフィス(札幌、福岡)を展開しており、監査・保証業務、株式上場(IPO)支援業務、ファイナンシャルアドバイザリーサービス、パブリック関連業務、コンサルティングサービス、国際・IFRS関連業務、経営革新等認定支援機関関連業務などのサービスを提供。

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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。

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