令和3年3月期の決算留意事項(「会計上の見積り」と新型コロナウイルス感染症の影響)①

2021年4月7日
新型コロナウィルス感染症イメージ

財務諸表を作成する上では、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性など、様々な「会計上の見積り」を行うことが必要です。

「会計上の見積り」は、「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」とされています(遡及会計基準4項(3))。

決算上、新型コロナウイルス感染症の影響について、「会計上の見積り」においてどのような点に留意が必要でしょうか。

今回は、「会計上の見積り」を行う上での考え方や主な留意事項について、ご説明いたします。

なお、次回は、開示の観点でご説明いたします。

1. 企業会計基準委員会の議事概要における考え方

「会計上の見積り」を行う上で新型コロナウイルス感染症の影響を考えるにあたり、第429 回(2020年4月10日)及び第432 回(2020年5月11日)の企業会計基準委員会の議事概要で示されている考え方が参考になります。

なお、第436回企業会計基準委員会の議事概要(2020年6 月26日)では、四半期決算における考え方が示されています。

(第429回企業会計基準委員会の議事概要より抜粋)
新型コロナウイルス感染症の広がりは、経済、企業活動に広範な影響を与える事象であり、また、今後の広がり方や収束時期等を予測することは困難であるため、会計上の見積りを行う上で、特に将来キャッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難な状況となっているものと考えられる。このような状況において、会計上の見積りを行う上では、以下の点に留意する必要があると考えられる。

(1) 「財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出する」上では、新型コロナウイルス感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要があるものと考えられる。

(2) 一定の仮定を置くにあたっては、外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることができる場合には、これを可能な限り用いることが望ましい。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響については、会計上の見積りの参考となる前例がなく、今後の広がり方や収束時期等について統一的な見解がないため、外部の情報源に基づく客観性のある情報が入手できないことが多いと考えられる。この場合、新型コロナウイルス感染症の影響については、今後の広がり方や収束時期等も含め、企業自ら一定の仮定を置くことになる。

(3) 企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積もられた金額については、事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、「誤謬」にはあたらないものと考えられる。

なお、2021年2月10日に公表された第451回企業会計基準委員会の議事概要においても、上記(1)(2)及び(3)については、見積開示会計基準の適用後も会計上の見積りを行う上で新型コロナウイルス感染症の影響を考えるにあたり変わらないとされています。

2.「会計上の見積り」を行う上での主な留意事項

本決算についても、会計上の見積りを行う上で本感染症の影響を考慮する際には、上述の第429回企業会計基準委員会議事概要を踏まえて検討する必要があると考えられます。

たとえば、以下の見積り項目は影響を受ける可能性があるため、留意が必要です。

見積り項目 主な検討ポイント
市場価格のない株式等の減損処理
  • 実質価額が著しく低下したとき(少なくとも株式の実質価額が取得原価に比べて50%程度以上低下した場合)に該当するか
  • 子会社や関連会社等の株式については、実質価額が著しく低下したとしても減損不要と判断する場合、実行可能で合理的な事業計画等をもとに回復可能性が十分な証拠によって裏付けられているか

(金融指針92,285項)

固定資産の減損会計
  • 実務的に入手可能なタイミングにおいて利用可能な情報に基づき以下の例示に照らして、減損の兆候に該当するかどうか
    • 「営業活動から生ずる損益またはキャッシュ・フローが継続してマイナスとなっているか,または継続してマイナスとなる見込みである場合」
    • 「使用範囲または方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合(事業の廃止または再編,資産の遊休状態,稼働率が著しく低下し回復の見込みがない等)」
    • 「経営環境が著しく悪化したか,または悪化する見込みである場合(市場環境の著しい悪化等)」
    • 「市場価格の著しい下落」
  • 減損損失の認識の判定および測定における将来キャッシュ・フローの見積りは、企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて適切に行われているか

(減損指針12~15,18~20,36~42項)

繰延税金資産の回収可能性
  • 将来の課税所得の見積りは、合理的な仮定に基づく業績予測によって、適切に行われているか
  • 繰延税金資産の回収可能性に関する取扱いを適用する際の企業分類は適切か
    • 分類1および2:「 近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない 」
    • 分類5「 翌期においても重要な税務上の欠損金が生じることが見込まれる 」
    • 分類4の要件に該当するが、「将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明」し、分類2または分類3に該当するものとして取り扱う場合 等

(回収可能性指針17~32項)

参考基準等:

・遡及会計基準:企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」

・見積開示会計基準:企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」

・金融指針:会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」

・減損指針:企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」

・回収可能性指針:企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」

以上

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仰星監査法人

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