厚生年金保険の標準報酬月額
上限を段階的に引上げ

2025年7月24日
厚生年金保険の標準報酬月額 上限を段階的に引上げ

【5分で納得コラム】今回のテーマは「厚生年金保険の標準報酬月額 上限を段階的に引上げ」です。

厚生年金保険の標準報酬月額 上限を段階的に引上げ

1. 標準報酬月額

雇用保険等の労働保険では、保険料や給付額が「実際に支払われた賃金」に基づいて決定されますが、健康保険や厚生年金保険等の(狭義の)社会保険では、保険料や給付額が原則として年に一度被保険者ごとに決定される「標準報酬月額」に基づいて決定されます。このため、社会保険の保険料は、実際に支払われた賃金が一部変動したとしても、直ちに変わることはありません。

標準報酬月額の決定方法には、資格取得時決定、定時決定、随時改定等があり、それらに基づいて被保険者ごとに標準報酬月額が決定されます。また、標準報酬月額は、健康保険においては第1等級の58,000円から第50等級の1,390,000円までの全50等級、厚生年金においては第1等級の88,000円から第32等級の650,000円までの全32等級に区分され、下限及び上限があります。

なお、被保険者の標準報酬月額が決定された場合には、日本年金機構等の保険者から事業主に決定通知書が交付されますが、当該交付を受けた事業主にはその内容を被保険者に通知することが義務づけられています。当該通知を正当な理由なくしない場合は、罰則の対象となります。

※6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金

2. 厚生年金保険における上限設定

厚生年金保険における標準報酬月額の上限は、年金の給付額に大きな差がでないようにすることや保険料の半分を負担する事業主の負担を考慮して、現在は、全被保険者の標準報酬月額の平均の約2倍の額である650,000円になっています。よって、仮に月給1,000,000円の被保険者であっても、650,000円の標準報酬月額に基づく保険料を負担する等の仕組みになっています。

このため、650,000円を超える賃金を受け取っている被保険者については、実際の賃金に対する厚生年金保険料の負担割合が相対的に低く、また、将来の年金額もその分低くなり、現役時代の収入に見合った年金を受け取ることができない状況になっています。この点を解消するため、厚生年金保険の標準報酬月額の上限額を引上げる改正法が、令和7年の通常国会で成立しました。

3. 2027年9月から上限を段階的に引上げへ

厚生年金保険の標準報酬月額の上限は、現在の650,000円から750,000円に段階的に引上げられます。
なお、上限引上げの具体的なスケジュールは、以下のとおりです。

引上げ時期 標準報酬月額の上限
現在 650,000円
2027年9月~ 680,000円
2028年9月~ 710,000円
2029年9月~ 750,000円

執筆陣紹介

岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)

食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「テレワーク・フリーランスの労務・業務管理Q&A」 (共著/民事法研究会/2022)、「実務Q&Aシリーズ 退職・再雇用・定年延長(共著/労務行政研究所/2021)、「判例解釈でひもとく働き方改革関連法と企業対応策」(共著/清文社/2021) など。

≪岩楯めぐみ氏の最近のコラム≫

※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。

コラム一覧に戻る