夫婦共同扶養の場合の被扶養者の認定

2021年7月21日
夫婦と子供

夫婦で年収がほぼ同じ場合に、その夫婦の子がどちらの被扶養者になるか、保険者間で調整する間にその子が無保険状態となって償還払い(一旦全額を支払いそのあと払い戻しを受けること)を強いられることがないよう、被扶養認定の基準が改定されました。
その内容は以下のとおりです。当該基準は、2021年8月1日から適用されます。

1. 夫婦ともに被用者保険(協会けんぽや健康保険組合など)の被保険者の場合

・被保険者とすべき者の数にかかわらず、被保険者の「年間収入(※1)が多い方」の被扶養者とします。
※1 年間収入とは、過去の収入、現時点の収入、将来の収入等から今後1年間の収入を見込んだものをいいます。

・夫婦双方の年間収入の差額が「年間収入が多い方」の1割以内である場合は、被扶養者の地位の安定を図るため、届出により、主として生計を維持する者の被扶養者とします。

・夫婦の双方又はいずれか一方が共済組合(公務員及び私立学校教職員を対象とする保険組合)の組合員で、その者に被扶養者とすべき者に係る扶養手当(※2)の支給が認定されている場合には、その認定を受けている者の被扶養者として差支えありません。なお、扶養手当の支給が認定されていないことのみを理由に被扶養者として認定しないことはできません。
※2 扶養手当は、主たる扶養者である場合に支給されることになっています。

・被扶養者として認定されない場合は、以下の取扱いとなります。

  • ①被扶養者として認定しない保険者は、当該決定に係る通知を発出します。なお、当該通知には、認定しなかった理由(年間収入の見込み額等)、加入者の標準報酬月額、届出日及び決定日を記載することが望ましいとされています。
  • ②被保険者は、①の通知を届出に添えてもう一方の保険者に提出します。
  • ③もう一方の保険者は、①の通知とともに届出を審査し、他保険者の決定に疑義がある場合には、届出を受理した日より5日以内に、不認定とした保険者と、いずれの者の被扶養者とすべきかについて年間収入の算出根拠を明らかにした上で協議します。
  • ④③の協議が整わない場合には、初めに届出を受理した保険者に届出が提出された日の属する月の標準報酬月額が高い方の被扶養者とします。なお、標準報酬月額が同額の場合は、届出により、主として生計を維持する者の被扶養者とします。

2. 夫婦の一方が国民健康保険の被保険者の場合

・被用者保険の被保険者については年間収入を、国民健康保険の被保険者については直近の年間所得で見込んだ年間収入を比較し、いずれか多い方を主として生計を維持する者とします。

・被扶養者として認定されない場合は、以下の取扱いとなります。

  • ①被扶養者として認定しない被用者保険の保険者は、当該決定に係る通知を発出します。なお、当該通知には、認定しなかった理由(年間収入の見込み額等)、加入者の標準報酬月額、届出日及び決定日を記載することが望ましいとされています。
  • ②被保険者は、①の通知を届出に添えて国民健康保険の保険者に提出します。
  • ③国民健康保険の保険者は、被扶養者として認定されないことにつき疑義がある場合には、届出を受理した日より5日以内に、不認定とした被用者保険の保険者と協議します。
  • ④③の協議が整わない場合には、直近の課税(非課税)証明書の所得金額の多い方を主として生計を維持する者とします。

3. その他

・被保険者が育児休業等を取得して収入が低下する場合でも、休業期間中は、被扶養者の地位安定の観点から、特例的に被扶養者を異動する取扱いはしません。

・年間収入の逆転に伴い被扶養者認定を削除する場合は、年間収入が多くなった被保険者の方の保険者が認定することを確認してから削除します。

・被扶養者の認定後、その結果に異議がある場合には、被保険者又は関係保険者の申立てにより、被保険者の勤務する事業所の所在地の地方厚生局保険課長が関係保険者の意見を聞き、斡旋を行います。各被保険者の勤務する事業所の所在地が異なる場合には、申立てを受けた保険課長が斡旋を行い、その後、相手方の保険課長に連絡します。

夫婦共同扶養の場合の被扶養者の考え方については、過去に基準(昭和60年6月13日付保険発第66号・庁保険発第22号(以下、昭和60年通達))が示されており、改定された基準も基本的には昭和60年通達と同じ考え方に基づくものになりますので、これまの運用をただちに見直す必要はないと考えますが、改定された基準には昭和60年通達には記載されていない事項(年間収入の逆転に伴う被扶養者認定の削除に関する記述など)も含まれるため、今後、被扶養者調査などにおいて運用が見直される可能性もあるでしょう。

執筆陣紹介

岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)

食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー、退職金制度構築支援等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「最新整理 働き方改革関連法と省令・ガイドラインの解説」(共著/日本加除出版株式会社)、「アルバイト・パートのトラブル相談Q&A」(共著/民事法研究会)他。

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