第21回 予算管理のポイント

2025年9月25日
第21回 予算管理のポイント

【5分で納得コラム】今回のテーマは、「予算管理のポイント」です。

予算管理は、企業経営において計画と実績を結びつけ、組織全体の行動を統制・調整する重要な管理会計手法です。単なる数値管理にとどまらず、経営戦略を具体化し、組織目標を共有しながら、経営資源を最適に配分する役割を担っています。
近年では、FP&Aが中心となり、予算管理を戦略的な意思決定支援の仕組みとして進化させています。FP&Aが中心的な役割を果たし、予算管理は戦略的な意思決定を支援する仕組みへと進化しています。FP&Aは、将来予測やシナリオ分析を通じて柔軟かつ俊敏に経営を支援し、戦略と整合した予算編成、ドライバー指向の財務モデル構築、さらには全社的な予算プロセスの統括・改善を担うことで、予算の戦略実行を支える経営管理ツールとして機能させています。本稿では、このような観点から、予算管理のポイントについて解説します。

第21回 予算管理のポイント

1. 予算管理の意義と目的

予算管理は、企業経営において計画と実績を結びつけ、組織全体の行動を統制・調整するための重要な管理会計手法です。単なる数値の管理にとどまらず、経営戦略を具体化し、組織目標を共有するとともに、経営資源を最適に配分する役割を担っています。
予算管理には、計画、調整、伝達、動機付け、業績評価という基本的な機能があります。これらは相互に関連し合いながら、組織の活動を統制し、戦略目標の達成を支える役割を果たしています。

(1)計画

将来の企業活動を体系的に設計する機能です。経営戦略や中期計画に基づき、売上や費用、人員、投資などの数値目標を設定し、経営資源をどう配分するかを決定します。将来の不確実性を考慮して複数のシナリオを検討することも含まれ、組織全体が同じ方向に向かって行動するための出発点となります。

(2)調整

各部門の活動を全社的な視点から連携させる機能です。営業、生産、人事、資金など、部門ごとに立案された計画を相互にすり合わせ、矛盾が生じないように統合します。これにより、特定の部門だけが最適化される「部分最適」に陥ることを防ぎ、「全社最適」を目指すマネジメントが可能になります。

(3)伝達

経営陣の方針や目標を組織全体に浸透させる機能です。予算という具体的な数値目標を示すことで、経営戦略が現場にまで明確に伝わります。組織の全員が目指すべき方向を理解し、自身の役割を明確にすることで、組織全体の一体感を高めます。

(4)動機付け

従業員や部門の行動を、望ましい方向に導く機能です。達成可能でありながらチャレンジングな目標を設定することで、達成意欲を引き出し、主体的な行動を促します。また、目標達成度に応じた評価や報酬と結びつけることで、従業員が自らの業績に責任を持ち、能動的に改善を図る文化を醸成します。適切に設計された予算は、組織にとって強力なモチベーションの源泉となります。

(5)業績評価

予算を実績評価の基準として用いる機能です。実績と予算を比較することで達成度を測定し、優れた成果を上げた部門や個人を評価します。一方で、不振な分野に対しては原因を分析して改善策を講じます。この評価を通じて得られた情報は、次期予算編成や人事施策にフィードバックされ、組織全体で継続的な改善サイクルを生み出します。

2. 予算管理におけるFP&Aの役割

FP&Aは、従来の予算管理にとどまらず、よりダイナミックかつ広範な視点から企業の財務戦略を支援する役割を担っています。単に過去実績を管理するだけでなく、将来を見据えた予測や複数のシナリオ分析を通じて、経営陣の意思決定を強力にサポートします。

(1)事業予測

過去の実績データや市場動向を基に、月次・四半期といった比較的短期のスパンで将来の財務状況を予測します。これにより、経営は市場環境の変化に迅速かつ柔軟に対応することが可能になります。

(2)パフォーマンス分析

予算と実績の差異を表面的に確認するだけでなく、その背後にある根本的な原因を深く掘り下げて特定します。こうした分析は単なるチェックにとどまらず、具体的な改善策の立案につながるため、企業の持続的成長に直結します。

(3)財務計画(第14回参照

新規事業への投資やM&Aなど、企業にとって戦略的に重要な意思決定に際して、複数のシナリオを想定した財務シミュレーションを行い、それぞれが企業全体に与える影響を定量的に分析します。

こうした分析やシミュレーションを踏まえ、戦略的アドバイスとして経営陣に対し具体的かつ実行可能な提言を行うのもFP&Aの役割です。単なる数値管理にとどまらず、企業の意思決定を支える戦略的パートナーとしての位置づけが、FP&Aの本質といえます。

3. FP&Aの視点からの予算管理のポイント

FP&Aの視点から予算管理を行ううえで最も重要なのは、予算を単なる数値の積み上げとして捉えるのではなく、企業戦略を実行するための経営管理ツールとして位置づけることです。FP&Aは、単に予算を編成・管理する役割にとどまらず、経営陣の意思決定を支える戦略的パートナーとして機能することが求められます。

(1)予算と企業戦略の一貫性

従来のように前年実績を基準に機械的に数値を積み上げるのではなく、中期経営計画や成長戦略に基づいて予算を設計します。戦略目標を具体的なKPI(重要業績評価指標)に落とし込み、戦略の実現に直結する施策に重点的に資源を配分します。FP&Aは「予算を作る」立場ではなく、「戦略を実行可能な計画に翻訳する」役割を担います。

(2)トップダウンとボトムアップのバランス

経営陣から提示される全社目標と、現場から積み上げられる具体的な施策との間にはしばしばギャップが生じます。FP&Aは両者を調整し、戦略整合性と現場の納得感の両立を図ることで、実効性のある予算を構築します。

(3)柔軟かつ俊敏な予実管理

環境変化が激しい現代において、年初に立てた予算をそのまま守るだけでは不十分です。FP&Aは、月次や四半期ごとのローリングフォーキャスト(見直し・再予測)によって将来の見通しを常に更新します。実績との差異を単なる事後報告にとどめず、原因分析と是正策の立案につなげることで、経営陣が変化に即応した意思決定を行えるようにします。

(4)ドライバー指向の財務モデル構築

FP&Aは数値を単なる勘定科目ベースではなく、事業の根幹をなすドライバー(要因)に基づいて設計します。売上であれば「顧客数×単価」、原価であれば「生産数量×材料単価」といったように、数値の背後にある要因を明確にし、KPIツリーを構築することで、事業活動と財務成果の因果関係を可視化します(第6回参照 )。これにより、予算は単なる数字ではなく、事業活動のシナリオとして経営陣に理解されやすくなります。

(5)意思決定支援

FP&Aは、予算を「管理する」のではなく、「意思決定に役立つ情報」へと変換します。予実差異を深く掘り下げて構造的な課題を特定し、シナリオ分析や感度分析を通じて、経営陣に複数の選択肢と判断材料を提供します。数値だけでなく、その背景要因や将来のリスク、必要な打ち手まで含めて示すことで、戦略的な意思決定を強力にサポートします。

(6)全社的な予算管理プロセスの統括・改善

FP&Aは、全社的な予算管理プロセスそのものを統括し、継続的に改善する役割も担います。各部門の責任と役割、スケジュールを明確にし、ITツールやBIシステムを活用して集計・分析を効率化することで、属人化やミスを防ぎ、組織的な仕組みとして予算管理を機能させます。

イメージ

図 予算管理の目的とポイントの関係

執筆陣紹介

仰星コンサルティング株式会社

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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。

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