偶発事象の会計処理及び開示に関する研究報告の公表について

2019年6月12日

日本公認会計士協会は、2019年5月27日付で会計制度委員会研究報告第16号「偶発事象の会計処理及び開示に関する研究報告」(以下、「研究報告」とします)を公表しました。

偶発事象の会計処理及び開示に関する研究報告の公表について

我が国では、偶発事象に関する会計基準は存在せず、偶発事象の定義や会計上の取扱いに関するルールが定められていません。一方で、偶発債務(債務の保証など現実に発生していない債務で、将来において事業の負担となる可能性のあるもの)がある場合には注記が求められています。
そこで日本公認会計士協会では、偶発事象の中でもより偶発性が高いと考えられる訴訟関連、違法行為関連、損害賠償関連を対象とし、有価証券報告書に記載されている偶発事象関連の引当金の計上の状況や貸借対照表の注記における開示状況の調査を実施して、どのタイミングで偶発事象の注記等の開示や引当金の計上が行われているかを考察し、研究報告として公表しました。

本研究報告は、実務上の指針として位置づけられるものではないとされていますが、偶発事象に関する実務において参考になると考えられます。そこで今回は、この中からより多くの会社で参考になると考えられる訴訟関連についての調査・分析結果を紹介します。

1.調査結果の紹介

日本公認会計士協会が、2011年4月1日から2016年3月31日のいずれかの決算日において、有価証券報告書の連結貸借対照表に上記に関連する引当金を計上していた東証一部上場企業を対象として調査した結果として、次のように報告されています。

引当金を計上する前に
偶発事象に関する注記を
記載していなかった会社
引当金を計上する前に
偶発事象に関する注記を
記載していた会社
訴訟関連 62社 8社
違法行為関連 55社 1社
損害賠償関連 18社 2社

このうち、訴訟関連について、次のように考察されています。

  • (引当金を計上する前に偶発事象に関する注記を記載していた会社)
    • ・第一審の判決が出たことを契機として偶発事象に関する注記を記載したケースと提訴されたことを契機として同注記を記載したケースが見られた。
    • ・その後、裁判の進捗に従い、損害賠償金支払いにかかる発生可能性や金額についての見積りの精度が上がった結果、ある時点で発生可能性が高く、金額の合理的な見積りが可能となったとして引当金を計上しているが、何をもって引当金を計上すべきと判断したのかまでは明らかにはなっていない。
  • (引当金を計上する前に偶発事象に関する注記を記載していなかった会社)
    • ・どのような場合に発生可能性が高いと判断するのかについての数量的なガイダンスは示されていないことから、損害賠償金の支払いを命じる判決が出た場合、当該事実をもって一定程度の発生可能性と金額の見積りが可能になったと判断して引当金を計上しているのではないかと想定され、注記による開示が可能となるタイミングにおいては、既に引当金を計上すべき段階になっているのではないかと考えられる。

2.調査・分析結果のポイント

今回の調査から、引当金を計上する前に注記を記載していた会社の方が少数であるという結果が出ました。もちろん、個別の案件ごとに判断が必要ですが、現行制度のもとでは、訴状が届いたからといって直ちに偶発事象に関する注記を記載しなければならないわけではなく、場合によっては判決が出るまで注記を記載せず、いきなり引当金を計上する例もあるということを知っておくだけでも非常に有用ではないでしょうか。

執筆陣紹介

仰星監査法人

仰星監査法人は、公認会計士を中心とした約170名の人員が所属する中堅監査法人です。全国に4事務所(東京、大阪、名古屋、北陸)2オフィス(札幌、福岡)を展開しており、監査・保証業務、株式上場(IPO)支援業務、ファイナンシャルアドバイザリーサービス、パブリック関連業務、コンサルティングサービス、国際・IFRS関連業務、経営革新等認定支援機関関連業務などのサービスを提供。

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