第26回 ROIC経営導入のポイント
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【5分で納得コラム】 今回のテーマは、「ROIC経営導入のポイント」についてです。
内容
企業価値の持続的な向上が強く求められる今日において、単なる売上拡大や利益成長のみを追求する経営には限界があります。重要なのは、投入した資本に対してどれだけ効率的にリターンを生み出しているかという視点を経営の中心に据えることです。その指標となるのがROICであり、本稿では、ROICを軸とした事業ポートフォリオの評価と戦略策定の考え方、現場KPIへの展開手法、さらには予算管理や投資判断を含む経営管理プロセスへの組み込み方について整理します。ROICを単なる財務指標にとどめず、全社的な意思決定を貫くマネジメント基盤として機能させるための実践的枠組みを解説します。
第26回 ROIC経営導入のポイント
1. 事業ポートフォリオの評価と戦略の策定
ROIC経営の中核指標であるROICは以下の様に算定されます。
ROIC=税引後営業利益(NOPAT)/投下資本(有利子負債+株主資本)
この数値を単に計算するのではなく、ROICを構成要素に分解し、現場で管理可能な指標へと落とし込むことが重要です。売上高や売上高利益率、在庫回転率といった日々のKPIが、最終的にどのように資本効率へと結びつくのかを可視化することが、ROIC経営の出発点となります。
(1)事業ポートフォリオの評価と戦略策定
事業ポートフォリオの評価と戦略策定は企業が持続的に価値を創造するために、全社最適の視点から経営資源を再配分する重要なプロセスです。単なる売上規模や利益額ではなく、どれだけ効率的に資本を活用しているかという視点と、将来の成長可能性を組み合わせて判断することが不可欠です。
効果的なポートフォリオ管理を行うためには、客観的な指標に基づく評価が必要となります。その基軸は、ROICが資本コスト(WACC)を持続的に上回っているかどうかに置かれます。企業価値の創出とは、資本コストを超えるリターンを生み続けることに他なりません。
(2)スタンドアロン単位での評価
投資や撤退の判断を適切に行うためには、事業をスタンドアロン単位で区分し、各単位ごとに貸借対照表および損益計算書を可視化することが求められます。さらに、単にROICがWACCを上回っているかどうかを確認するだけでなく、「(ROIC−WACC)×投下資本」、すなわち絶対額としての価値創出額を重視することが重要です。
これにより、効率性向上のみを追求した結果として事業規模を過度に縮小してしまう縮小均衡を回避し、効率と規模の両立を図ることが可能になります。資本効率と価値創出額の双方を継続的に高めていくことが、ポートフォリオ戦略のポイントです。
2. ROICツリーによる現場への展開
ROICを現場で機能させるためには、その構造を分解し、因果関係を明確にする必要があります。ROICは、売上高利益率という収益性の指標と、投下資本回転率という効率性の指標に分解することができます。さらにそれぞれを細分化していくことで、現場で管理可能なKPIへと落とし込むことが可能になります。
図1 ROICツリーの開示例(オムロン株式会社「統合レポート2025」)
ROICツリーを構築することにより、どの指標を改善すれば最終的にROICが向上するのかが明確になります。これにより、現場の活動と企業価値とのつながりが可視化され、ROIC経営が単なる財務指標ではなく、実践的なマネジメントツールとして機能するようになります。KPIの具体的な設定および運用方法については、「第16回 KPI設定の勘所」および「第17回 KPI運用の勘所」を参照ください。
3. PDCAサイクルへの組み込み
ROIC経営を形骸化させないためには、予算策定や実績管理といった経営管理サイクルの中に、ROICを不可欠な管理指標として組み込むことが必要です。
(1)デジタル化による可視化の推進
FP&AはERP(基幹システム)とBIツールを連携させ、誰もがいつでも最新のROICデータを確認できるダッシュボードを構築します。これにより、従来のようなデータ収集や加工に多くの時間を費やす集計中心の業務から脱却し、蓄積されたデータを基にした分析や改善提案へと工数をシフトさせることが可能になります。
(2)予算編成とローリング・フォーキャストへの活用
予算編成およびローリング・フォーキャストにもROICを組み込みます。毎年の予算策定において、売上や利益目標と並んで期末ROIC目標を設定し、必達指標として管理します。FP&Aは月次および四半期ごとに最新の着地予想に基づくROICの予実管理を行い、目標からの乖離や悪化の兆候を早期に検知します。そして必要に応じて事業部に対して具体的なアクションプランを提示し、機動的な修正を図ります。
(3)投資判断基準(ハードルレート)の導入の徹底
設備投資やM&Aの検討においては、その投資が将来のROICをどのように変化させるかを審議の必須項目とします。FP&Aは投資前の審査にとどまらず、投資実行後のモニタリング、すなわち事後評価を継続的に実施し、当初計画どおりの資本効率が達成されているかを検証します。これにより、投資の質を継続的に向上させることが可能になります。
ROIC経営の導入は、数年単位で取り組む変革プロジェクトです。その過程では、低収益事業の見直しや現場への厳しい効率改善の要求など、さまざまな摩擦が生じる可能性があります。
しかし、FP&Aが財務の論理と事業に対する深い理解の双方を兼ね備え、経営陣の参謀としての役割を果たすと同時に、現場に寄り添う実行支援者として機能することができれば、組織変革は着実に実現されます。ROICという明確な指針のもと、企業価値を持続的に創出し続ける強固な経営体制へと進化させていくことが求められます。
執筆陣紹介
- 仰星コンサルティング株式会社
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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。

