事例インタビュー

「Microsoft Access」で構築したサブシステムも移行
慈恵医大が人事給与システムを「Azure」に移行、
移行作業で直面した課題とは


2020年3月12日

長年にわたり改修と更新を繰り返したシステムは、クラウド移行が困難なことがある。慈恵大学がこの課題を克服し、人事給与システムを「Microsoft Access」で構築した300個のサブシステムごとリフト&シフトでクラウドに移行した方法とは。

進まない医療業界のクラウド化、慈恵大学のチャレンジ

東京慈恵会医科大学附属病院の新外来棟(提供:慈恵大学)
東京慈恵会医科大学附属病院の新外来棟
(提供:慈恵大学)

一般企業のみならず、医療機関や教育機関の多種多様な業務でも、ITが活躍する場面は少なくない。しかし一般企業の潮流とは異なり、医療分野はクラウド化に対する歩みが遅れているという現状がある。取り扱いに注意を要する情報や機密性の高いシステム、特有の要件の多さが代表的な原因だ。しかしオンプレミスシステムが抱える課題は一般企業と同様で、パブリッククラウドのメリットを生かすのに適した業務も存在する。

慈恵大学の高田 浩志氏(法人事務局総務部給与厚生課  課長)は次のように説明する。


慈恵大学  高田 浩志氏

総務部給与厚生課でも、業務システムに大きな課題を抱えていた。特に人事給与システムは、さまざまな職種と勤務形態の教職員情報を管理している。1990年代は、独自で開発した人事給与システムを利用しており、特有の業務や要件を細かに作り込んでいたという。

2000年に入ると、バックオフィスのコスト抑制や省力化のためにパッケージ製品を採用することになった。しかし、長年にわたって開発を続けてきたシステムの要件をパッケージで再現することは難しかった。幾つかの製品を検討したものの、帳票などのカスタマイズが膨大になり、コストが肥大化してしまうことも問題視された。こうした悩みを解決できる製品として同法人が採用したのは、クレオの人事給与パッケージ「ZeeM」だった。


慈恵大学  鈴木 将司氏

慈恵大学の鈴木 将司氏(法人事務局総務部給与厚生課  係長)は次のように振り返る。「ZeeMは学校法人向けの機能が豊富で、特有の申請フローなどにも標準対応している製品でした。そのため既存システムからの移行でも我慢すべきところが最小限で済んだのです。クレオは実績やノウハウが豊富で、カスタマイズにも柔軟に応えてくれました」

長年の作り込みが移行の大きなハードルに

導入以来20年近くZeeMを愛用してきた慈恵大学だったが、2010年代後半に更改時期が迫り、いっそうの業務改善やIT活用が求められていた。特に課題視されていたのは、医科大学ならではの複雑な制度に対応するために、ZeeMの周辺に作られた膨大な数のサブシステムだ。

Microsoftのデータベースソフトウェア「Microsoft Access」(以下、Access)を利用して動作していたサブシステムの数は300個にも上る。これらのサブシステムは人事給与システムの法改正アップデートとAccessのバージョンアップのたびに不具合が生じないかどうかを検証しなければならず、場合によっては再開発作業が必要になるなど、システム管理担当者の負担は甚大だった。現場で多様なデバイスを活用するシーンが増えつつあり、端末を問わず汎用(はんよう)的に利用できる環境も必要とされた。

そこで注目したのがクラウドだ。Webベースの業務システムであれば、エンドユーザーが利用するデバイスの要件と切り離して拡張性や柔軟性を確保できる。クラウドサービスは、学内に設置したハードウェアで運用するシステムに比べて運用保守をアウトソーシングしやすく、大幅な負荷軽減が期待できる。

ただし膨大な数のサブシステムを要する人事給与業務のクラウド化は容易ではない。しかも部分的なクラウド移行など、移行方針によってはクラウド化の恩恵を十分に得ることができない可能性もある。


クレオ  松本 明氏

クレオの松本 明氏(ソリューションサービスカンパニー  営業統括部第二営業部  シニアマネージャー)は、こう振り返る。「長年にわたってAccessを活用して作り込んできた300個近くのサブシステムが、各端末に分散していることが問題でした。これらのサブシステムは業務効率化のために欠かせないミドルウェアのような役割を果たしていました。そのため削減することは難しく、急激なスリム化は困難です。Microsoftのクラウドサービス『Microsoft Azure』(以下、Azure)であればAccessとの親和性が高く、クラウド版の『ZeeM on Azure』との組み合わせでニーズを満たすことができると判断しました」

慈恵大学は他社のクラウドサービスやアウトソーシングサービスも検討したが、クレオのサービスとZeeM on Azure以上に適したサービスはなかったという。他大学でもZeeMの評価は高く、移行の負担が大きい他サービスを選ぶ理由も見つからなかった。高田氏は「長年にわたって信頼関係を築いてきたクレオであれば、当学の要望にしっかり応えてくれるという期待がありました」と語る。

慈恵大学とクレオの共創でクラウドへ“ダイブ”

クラウドシフトとはいえ、既存の業務を大幅に変更することは避けたいと慈恵大学は考えていた。そこでクレオは、従来システムをできる限りそのままクラウドに移し替える「リフト&シフト」の考えを採り入れ、部分的な業務の見直しを提案した。


クレオ  菊池 光純氏

容易な作業ではなかった。クレオは既存のシステムを細やかに調査して検証し、時間をかけてAzureに適合させた。クレオの菊池 光純氏(ソリューションサービスカンパニー  インテグレーション本部技術統括部クラウド技術部  部長)は次のように話す。「オンプレミスのAccessで作り込んでいる機能は膨大で、どうやってAzureに集約すればよいのかというのが大きな問題でした」

例えば同法人は、組織/担当者ごとのアクセス制御機能や権限管理機能、出退勤データを職種ごとの手当に反映させる機能などを、Accessのサブシステムとして作り込んで利用してきた。こうした機能は長年にわたって細かな設定を追加し続けたため、まずは丸ごと移行し、将来的にAzureで動作するAccessの資産を減らして業務を標準化するのが適切だと考えた。「クラウド“リフト”というよりクラウド“ダイブ”と言ってもよい状況でした」と菊池氏は振り返る。

ユーザーでも簡単に扱えることをうたうクラウドサービスは少なくない。しかし実際に検討すると、こうしたレガシーな資産がクラウド移行の大きなハードルになりがちだ。鈴木氏は「クレオはサポート体制が充実しており、私たちの要望を真摯(しんし)に受け止めて、迅速かつ的確に応えてくれました。課題解決・目標実現に向けて共に歩んでくれるパートナーがいるというのは、非常に心強いことです」と信頼を寄せる。

さらなる業務改善とクラウド活用へ

ZeeM on Azureに移行した慈恵大学は、数カ月分の月次処理・帳票出力を経験し、従来通りの運用が実現できたという。現場スタッフは特別な違いを感じることもなく、操作のトレーニングやマニュアルの準備すらほとんど必要なかったそうだ。移行直後こそアクセス遅延などの小規模な問題はあったが、クレオが日々改善を繰り返し、現在では快適に稼働している。

「クレオのサポートとZeeM on Azureによって、サブシステムの散在や運用負荷の増大、システムの停止など、オンプレミスのリスクを軽減できました。クレオと長い時間をかけて話し合いを重ねて信頼関係を醸成できたことで、安心してクラウド移行ができたのだと思います。2020年以降は、Azureをベースにサブシステムの整理や労務系の機能強化など、さらなる業務の最適化を推進する計画です」(高田氏)

キーマンズネットより転載