第5回 借手のリース期間

2025年6月25日
第5回 借手のリース期間

【5分で納得コラム】第5回は「借手のリース期間」について解説します。

借手のリース期間は、契約書に定められた期間と必ずしも一致するものではありません。リース期間の見積りには、解約不能期間に加えて、延長オプションや解約オプションの行使可能性を含めて判断する必要があります。新リース基準では、これらのオプションの行使が「合理的に確実」と言えるかどうかを見極めることが重要とされており、その判断には借手にとっての経済的インセンティブが大きく関係します。本稿では、リース期間の見積りに影響を与える代表的な経済的要因を整理し、実務上の判断ポイントを明らかにします。

第5回 借手のリース期間

1. 借手のリース期間

借手のリース期間は、契約書に記載された契約期間と一致するとは限りません。リース期間の決定にあたっては、契約上の解約不能期間に加えて、借手が行使することが合理的に確実と判断される延長オプションの対象期間や、行使しないことが合理的に確実と判断される解約オプションの対象期間を考慮する必要があります。つまり、単純な契約期間ではなく、将来の見積りを反映した実質的な利用期間に焦点を当てて判断することが求められます。

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図1 借手のリース期間

この判断プロセスは、リース基準の改正により特に実務上の対応が難しいとされている項目のひとつです。契約には通常、一定の解約不能期間が設けられており、その期間を過ぎると解約可能となる場合があります。これが解約オプションの対象期間となります。また、契約上で延長が可能とされている場合には、延長オプションもリース期間の見積りに含めて検討することが必要です。

なお、解約オプションが設定されていない契約については、契約期間そのものが解約不能期間と一致することになります。同様に、延長オプションが存在しない契約では、契約上の定められた期間内でリース期間を決定することになります。

リース期間にオプション期間を含めるか否かの判断は、経営者の意図や将来的な計画だけに依拠できません。経済的インセンティブの存在、すなわち借手がそのオプションを行使することによって経済的利益を得ると合理的に期待されるかどうかが、重要な判断基準となります。たとえば、借手が原資産を20年間使用する可能性があると見込んでいたとしても、それだけでは延長オプションを含めた20年間をリース期間とする根拠にはなりません。実際に延長オプションを行使することが合理的に確実と判断されるかどうか、すなわち、借手が延長によって得る経済的利益が明確であるかどうかを基に判断されます。

2. 経済的インセンティブを生じさせる要因

借手のリース期間を決定する際には、将来の延長オプションや解約オプションの行使の可能性を含めて検討する必要がありますが、その際、経済的インセンティブが存在するかどうかが重要な判断要素となります。新リース基準では、この経済的インセンティブに関連する代表的な要因として、以下の5つが例示されています。借手は、これらの要因の有無や影響度を総合的に勘案して、リース期間を合理的に見積もることが求められます。


表1 経済的インセンティブの例

経済的インセンティブを生じさせる要因(適17) 考慮すべき経済的インセンティブの例
延長又は解約オプションの対象期間に係る契約条件
(リース料、違約金、残価保証、購入オプションなど)
  • ① オプション期間におけるリースに係る支払金額
  • ② 変動支払または他の条件付支払(解約ペナルティおよび残価保証に基づく支払など)の金額
  • ③ 当初のオプション期間後に行使可能なオプションの契約条件(IFRS16 B37)
大幅な賃借設備の改良の有無 借手のリース期間の判断に影響を与える「大幅な賃借設備の改良」に該当するか否かは、例えば、賃賃借設備の改良の金額、移設の可否、資産を除去するための金額等の事実及び状況に基づく総合的な判断が必要になる(適BC34(2)①)。
リースの解約に関連して生じるコスト 違約金の他、原状回復費用、代替資産の取得費用、交渉コストなどを総合的に考慮し、オプション行使のインセンティブを検討する。
企業の事業内容に照らした原資産の重要性
  • ① 原資産が特殊仕様の資産かどうか
  • ② 資産の所在地
  • ③ 適合する代替品の利用可能性
延長又は解約オプションの行使条件 オプションの行使条件が借手にとって有利である場合には、経済的インセンティブが生じ得る(適BC32)。

上記の表のうち、一部の項目について説明します。

(1)延長や解約オプションの対象期間に係る契約条件

この中でも代表的な要素は、延長オプション期間や解約オプション期間におけるリース料の水準です。たとえば、延長オプションの対象期間に設定されているリース料が高額である場合、借手は延長オプションを行使しないと判断する可能性が高くなります。逆に、延長期間のリース料が相対的に安価である場合には、経済的利益が見込めるため、延長オプションを行使する合理性が高まると考えられます。また、オプション期間終了時に低価格で原資産を購入できる条件が付されている場合には、延長オプションを行使することなく、購入を選択する可能性もあります。このように、契約条件の具体的な内容が、リース期間の見積りに大きく影響します。

(2)企業の事業内容に照らした原資産の重要性

たとえば、借手が使用する原資産が特殊な仕様である場合や、業務にとって不可欠な設備である場合には、資産の経済的な使用可能期間にわたって利用し続けることが合理的であり、その結果として延長オプションを行使する、あるいは解約オプションを行使しないというインセンティブが働きやすくなります。

原資産の「所在地」もリース期間の判断に影響を与えます。特に小売業においては、戦略的に重要な立地にある店舗、例えば一等地にある旗艦店などは、たとえ業績が芳しくない状況であっても、出店していること自体にブランド的価値がある場合があります。このようなケースでは、店舗の継続使用に対する経済的メリットが存在するため、延長オプションを行使する可能性が高くなり、逆に解約オプションを行使する合理性は低くなると考えられます。

適合する代替品の利用可能性も重要な要因です。すなわち、リース対象の原資産と同等の性能や機能を持つ代替資産を市場で容易に調達できる環境にある場合には、リース契約を解約して代替資産に切り替えることの障壁が低くなります。結果として、解約オプションを行使する可能性が高くなると判断されることになります。

以上のように、リース期間を決定するにあたっては、単なる契約書上の条項だけでなく、借手の経済的な動機づけとなる各種要因を総合的に分析し、それらがオプションの行使にどのような影響を及ぼすかを合理的に評価することが不可欠です。

執筆陣紹介

仰星コンサルティング株式会社

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